ストライクゾーンを頭では分かっていてる。
しかし実際に判定すると打者・捕手・投手に首をかしげられることが多々ある。
これは私の感覚がおかしいのか…
それとも選手の感覚がおかしいのか…
私は草野球で投手をすることもある。
審判では年間80試合以上でマスクを被った。
「審判と投手、どちらがストライクゾーンを良く見ることができるか」
このように聞かれたら間違いなく「審判」と答える。
それはそうだ。
ストライクを決める要素として欠かせないホームベース、打者の間近に居るのだから。
しかし不安に思う事が一つある。
「審判と捕手、どちらがストライクゾーンを良く見ることができるか」
この質問をされたら私は困ってしまう。
それは捕手は遊びやブルペンでしかやったことがなく、緊張感のある場でやったことが無いからだ。
私はこの疑問を長く、強く抱いていた。
第一に緊張感のある場で捕手の経験がない。
リラックスしているとき、プレッシャーのかかるとき、ボールの見え方は違ってくる。
プレッシャーのかかる場面での投球がベースを通過する瞬間の捕手の見え方がとても気になっていた。
逆球での見え方、ボールを要求していてストライクゾーンに入ってくる球の見え方も気になる。
そんな疑問だらけの審判の私に転機が来た。
所属する草野球チームの捕手が退団し捕手が40近いおじさん一人になった。
チーム衰退の危機に監督は私に
「本格的に捕手を始めてくれないか?」
チーム活性化のためコンバートを依頼された。
もちろん戸惑いは多い。
しかしこれはチャンスだと思った。
監督には申し訳ないがチームのためではない。
『今までの疑問が解決するかもしれない』
『捕手心理が分かるかもしれない』
『審判としてもう一つ上のステージに上がれるかもしれない』
そんな気持ちで始めた捕手。
デビュー戦から9イニング全てマスクを被った。
(7イニングで決着がつかず8.9回はタイブレーク方式)
試合中は打者の特徴や配球を考える傍ら、ストライクゾーンの見え方を常に意識していた。
また審判経験者として、審判に見やすいような構え・キャッチングにも心掛けた。
そうしたらどうだろう。
私が予想していた捕手の見え方と大きくかけ離れた点が一つあった。
言い方を変えれば私が完全に見落としていた点だろう。
まず私の予想だ。
アウトコースの際どいコースもベースにかすったか否かがハッキリ見える。
そう思い込んでいた。
しかし現実は違う。
ボールを捕球する際、腕とミットが視界を遮りホームベースが隠れる。
また捕手は投球判定(ストライク・ボールの判定)をする意識を持っていない。
『際どいボールをストライクに見せたい』
このような捕手心理だ。
『腕とミットがベースを隠す』を分析
右利きが多い捕手。
もちろん右利きであればミットは左手。
右打者のアウトコースでは、ミットを体の正面に構えるとホームベース全体が腕とグローブで隠れる。
右打者のインコースでは、完全なボールのコースに構えればホームベースが見える。
しかしストライクゾーンに構えると、重要なホームベースの左側(捕手から見て)が腕とミットで隠れてしまうのだ。
そもそも捕手はど真ん中に構えていてストライクがきても、ベース上を通過したかは見えていない。
ボールとベースの両方は視界に入っておらず、見えているのはボールだけだ。
と言っても少しはホームベースも視界に入っている。
しかし視界に入っているホームベースはボールが通過した所ではなく、投球判定に関係の無い部分である。
捕手はストライクかボールか見えているのではない。
感覚で判断しているのだ。
打者に例えると分かりやすい。
打者はボールがベース上を通過したのを見て打つわけでも、見逃すわけでもない。
感覚を頼りにベース上を通過する前に判断しているのだ。
捕手目線でのホームベースとボールの関係は、両方を同時に見ることができないということが分かった。
これに気づけたことは大きい。
今までのモヤモヤが一気に晴れた。
審判と捕手、目の位置の違い
審判と捕手では投球を見る位置と高さが違う。
位置は捕手のかかとの隣に審判の爪先がくるように立つ。
高さは捕手の頭のてっぺんに審判のあごがくるように構える。
イメージとしては捕手の目の位置より審判の目の位置が、30㎝後ろで30㎝高い。
この距離がもっとも投球判定に適していると言われている。
前すぎては捕手に当たってしまうし、後ろすぎては捕手の体でホームベースが見えない。
後ろぎみに構える場合、目の位置を高くすることでホームベースが見える。
しかし低めの投球判定がしにくくなる欠点もある。
立ち位置は捕手と打者の間であり、捕手の斜め後ろからベース・ミットを覗きこむ。
捕手がインコースのボールゾーンに構えると、捕手と打者の間にスペースが無くなるため、捕手の真後ろより少し打者よりに構える。
この時、ベース・ミットが捕手の体に隠れないよう目の位置を高くするよう微調整を行う。
「そこまで無理して捕手と打者の間に立つ必要はないのでは?」
そう思う人もいるだろう。
しかしこれには理由がある。
後ろに飛ぶファールチップのほとんどは打者と反対方向に飛ぶ。
右打者の後ろへのファールチップはやや一塁ベンチ方向に飛び、左打者の後ろへのファールチップはやや三塁ベンチ方向に飛ぶことがほとんどだ。
身の安全を守るためにファールチップが来る可能性が低い捕手と打者の間に構える。
ファールチップがマスクに当たると頭・首に相当な負担がかかる。
このファールチップの影響で審判が出来ない体になってしまった人もいる。
例え投球が見にくいからと、打者の反対側に構えてはならない。
見え方の違い
私は今まで今まで審判より捕手の方がどのような状況下でも投球判定をしやすいと思っていた。
しかしそれは違った。
それでは3つのパターンで見ていこう。
逆球(アウトコースに構えてインコースに来る、またその逆も同じ)
審判は捕手の構える位置に会わせて立ち位置・高さを微調整する。
その為、捕手がアウトコースに構えれば審判もアウトコースに構える。
もちろんアウトコースに構えていてインコースに逆球が来ると投球判定がしにくい。
ベース上を通過したかどうか見にくいのだ。
アウトコースに構えていて、真ん中付近の甘いコースなら問題ないが、際どいコースは感覚に頼るしかない。
私は逆球の際どいコースが来たらまず間違いなく「ボール」と判定する。
これには理由がある。
捕手心理は逆球を「ストライク」にとってもらえる可能性は低いと感じている。
これは捕手自信も逆球がストライクかボールか見えていないのだ。
打者心理は「ボール」と言われれば大抵納得する。
結果、逆球は捕手も審判も見えていない。
要求通りのコース(アウトコース・インコース)に来る
前述した通り腕とミットが視界からホームベースを遮るため捕手は感覚で投球判定をしている。
それに比べて審判はどうだろう。
捕手より高い位置で投球判定を行うことにより、腕とミットが邪魔になることなくホームベースを覗き込める。
また捕手は捕球することに集中しているが、審判は投球判定だけに集中できる。
結果、要求通りのコースに来れば審判の方が見やすい。
高低の見やすさ
この高低がくせ者だ。
低い位置で見た方が低めは見やすい。
高い位置で見た方が高めは見やすい。
見るだけであれば低めは捕手、高めは審判の方が見やすい。
しかし捕球をする捕手、投球判定に集中できる審判…
申し訳ないがこれらを天秤にかけても低めは捕手の方が見やすい。
私は審判・捕手をしてそう感じた。
おわりに
今回は審判と捕手の視界だったり見やすさを経験・分析した。
結果としてお互いに見やすいエリアがあることが分かったが、これはあくまで参考に過ぎない。
私が審判をしていくなかでのモヤモヤを晴らしたかったのもある。
もちろんルール的には審判が「ストライク」と言ったものがストライクである。
しかしそれに固執すると成長は止まる。
私は選手として
『横柄な審判だ』
『選手の気持ちを考えているのか?』
このように思うことが多々ある。
ただ選手の心理を考えることを、悪と思う審判もいる。
『選手と審判は別物だ』
もちろん一理あるが、全てをそれで片付けたくない。
私がやっているのは草野球の審判だ。
プロ野球の審判ではない。
楽しさが欠けてはもともこもない。
この考えは間違えているかもしれない。
ただ今はこの気持ちを曲げるつもりも甚だ無い。
様々な人の目線にたち、野球を、審判を知りたい。そして成長したい。
この気持ちを忘れぬよう、このブログに書き留めておこう。