キッチンで発生した煙や臭いを素早く室外へ排出するレンジフード。
「強運転」での排気量は400~600㎥と大きい。
一般家屋の建物面積120㎡(36.3坪)で天井高2.5mだと容積が300㎥。
建築基準法では2時間で家全体の空気を全て換気するよう定めており、120㎡の家であれば1時間あたり150㎥の換気量が必要。
建築基準法の3~4倍の換気量を持ち、30~45分で家一件分の容積を換気する。
このように比較してみるとレンジフードの換気量に驚く。
このレンジフードの恐ろしさは、空気を強力に排出することでエアコンで調整された熱までも排出する点だ。
計算では1ヶ月で5,000円も電気代がプラスされる。
では詳しく見ていこう。
換気ロス
これだけ強力な換気をすれば当然室温にも影響が出る。
空気は排出した分だけ入ってくる。
自然なことだ。
室内外の温度が比較的同じな春や秋であれば問題ない。
ただし夏と冬は問題がある。
冷暖房機器で調整された熱を室外へ排出してしまうからだ。
室内外の温度差があるほど換気ロスは大きく、特に冬は深刻だ。
ここでは夏と冬のロスした熱を補うだけの電気代を計算していく。
また冷暖房機器は最も効率の高い機器、エアコンで算出する。
計算方式
【条件】
- 電気代:25円/W(24時間定額)
- 実行COP:3(エアコン)
- レンジフード稼働時間:3時間(1日あたり)
- 換気量:600㎥(1時間あたり)
- 室内外温度差:夏5℃(室内28℃/室外33℃)・冬15℃(室内20℃/室外5℃)
【計算式】
- 1時間あたりの熱損失量(W)=0.34(定数)×換気量(㎥)×時間×温度差(℃)
- 1日あたりの電気代(円)=熱損失量(W)/COP×1Wあたりの電気代×1/1000
こちらの計算方式を採用し、夏と冬の電気代を算出していく。
夏の電気代
1日の熱損失量
0.34×600×3×5=3,060(W)
1日の電気代
3060/3×25×1/1000=25.5(円)
1ヵ月の電気代
25.5×30=765(円)
冬の電気代
1日の熱損失量
0.34×600×3×15=9,180(W)
1日の電気代
9180/3×25×1/1000=76.5(円)
1ヵ月の電気代
76.5×30=2,295(円)
注意点
夏:25.5円/日・765円/月
冬:76.5円/日・2,295円/月
換気による熱のロスを熱交換率が高いエアコンで補うと上気の金額が必要となる。
金額差がちょうど3倍なのは、気温差が3倍なためだ。
冬に温度差の大きい東北では更に金額が上がり、温度差の少ない九州では下がると予想される。
JIS-C9912-2によると、レンジフードの使用時間は6.6時間(6時間34分)と定められている。
個人的にそこまで使用しないと判断し朝・昼・晩に1時間ずつ、計3時間の使用で計算した。
6.6時間で計算をすると…
夏:約1,700円/月
冬:約5,000円/月
倍以上に跳ね上がる。
また一番気をつけて欲しいのが暖房器具。
今回は高性能エアコンで算出したが、効率の悪いホットカーペットや電気ストーブで同じだけ暖めようとすれば電気代は上がる。
不快感
レンジフードにて室内の空気が排出されるということは、同じだけの空気が吸気口や家の隙間から入ってくるということ。
流行りのLDK一体型の間取りで吸気口の設置箇所を考えずに取り付けると危険だ。
リビングのくつろぐ空間に空気の通り道が生まれ、冷たい風が肌に当たれば室温以上に寒く不快に感じる。
レンジフードと賢く付き合う
掃除機とレンジフードはとても似ている。
『強運転でないと吸っている気がしない』
弱運転でも十分な吸引力があるのだが、より吸引力がある方を選択してしまう。
使用時の音の大きさの違いも『吸っている気にさせる』要因のひとつだ。
確かに強運転の方が吸引力はある。
しかし必要以上に強運転を使用することは、電気代だけでなく換気ロスにも繋がる。
掃除機であればフローリングは弱運転、カーペットは強運転にする。
レンジフードであれば臭いや煙の少ない料理は弱運転、多い料理は強運転にする。
これだけで消費電力や換気ロスが軽減されるのだ。
キッチンとリビングでは臭いと煙の感じ方が違う。
双方共に弱運転で快適であれば、無理に強運転にする必要はない。
各家庭に合った使用方法を見つけることが、今後の電気代を大幅に抑えるポイントになる。
季節ごとの付き合い方
レンジフード本体の消費電力・電気代は極めて少ない。
メーカーや機種により誤差はあるものの1時間あたり平均して、弱運転:1円・強運転:2円である。
室内外の温度差が少なくエアコンを使用しない春と秋は、レンジフードを使用することによって逃げる熱はほとんど無い。
使用時間・運転モードを気にせず使用できるだろう。
問題は冬。
電気代に大きく関わるシーズンなため、必要最小限の使用時間・運転モードでコントロールしたい。
夏は使い方次第でメリットにもデメリットにもなりうる。
エアコンを使用している時間は冬同様、必要最小限の使用時間・運転モードでコントロールしたい。
ただし『外気温<室内温度』の時は特に大きなメリットとになる。
強制的に室内の熱を排出し室温を下げる。
出先から戻ったときのモワーっと感を軽減させたり、比較的涼しい夜は寝苦しさを解消してくれるのだ。
プチ実験
室内温度31.7℃
1時間ほどスーパーへお買い物。
換気扇「入」+小窓を開けて外出。
(我が家はレンジフードが無く換気扇)
帰宅後に再度室温を計測すると、なんと室温が30.9℃に下がっている。
1時間20分で-0.8℃の結果。
測定時期が猛暑日の日中11:00~12:00なのに室温が下がるというのは驚き。
ちなみにこの時の外気温は34℃前後
『外気温>室内温度』でも効果を発揮したことが分かる。
おわりに
ハウスメーカーに行くと良く説明される、断熱や構造による省エネ性能。
家本体で電気代をコントロールするのも大切だが、住んでいる人の知識ひとつで電気代を大きく削ることができる。
熱交換率の勉強をすれば、快適性こそ劣るがホットカーペットやハロゲンヒーターよりエアコンの方がはるかに電気代が安いことに気づく。
ここまでは教えてくれるハウスメーカー・工務店も少なくないだろう。
今回紹介したレンジフードとの付き合い方を実践し、節約の幅を増やして頂けたら幸いだ。
レンジフードによる換気ロスが世間に広まり、日本の消費電力が下がり、電力不足が少しでも解消されるだけでなく、レンジフードの重要性を認識したハウスメーカー・キッチンメーカーが増えることを願いたい。